税務調査のツボ

税務調査に皆さんどんなイメージを持たれているでしょうか?
こわいおじさんが来て突然「この引出しを開けろ!」「畳の下に何か隠してあるはずだ!」みたいな?
まあそんなことは現実には滅多に無い話なんですが、すごく不安ですよね。

 

税務調査ではいったい何を聞かれるのか?
税務調査ではいったい何をされるのか?
税務調査に入られたら、税務署員はどこまで厳しいことを言うのか?
税務調査にあたって、どういう心構えで臨めばいいのか?

 

うちは儲かってないのに。もっと儲かってるとこに行ってよ!
仕事がとまってしまうやないか!暇な月に変えてくれ~

 

いろんな疑問と不安があると思います。
ここでは、そんな経営者や経理担当者のために、税務調査に関しての情報を述べたいと思います。

 

(1)税務調査官が予告なしに突然来たら?

 

予告がなく調査官が入ることがあります。その対応策はどうしたらいいでしょう?
玄関先に見知らぬ男が突然2人でやってきた。
どちらさまですか?と聞くと、税務調査官。
まずは「ご用件は?」って聞いてみてください。

 

そして、相手から「任意調査」っていう言葉が出たら、それは「マルサ」ではありません。
単なる普通の税務調査です!!

 

任意調査なので
「突然来られても困ります。今日は仕事が非常に忙しいのです。後日改めて、調査の日程を調整させてください。」って言って帰ってもらいましょう。
恐れることはありません。堂々と言って大丈夫です。なんせ「任意」なんですから。

 

法人税法は税務職員の質問検査権※と納税者の受忍義務を定めていますが、これは犯罪捜査とは全く別のものです。税務調査は捜査ではなく、あくまで調査です。
つまり、調査は任意協力なので、不意打ちの税務調査にまで無理して対応する義務はないんです。

 

予告なしで調査官が来る税務調査は、居酒屋・ラーメン店等々の飲食店の現金商売のケースがほとんどです。
飲食店は売上を抜きやすい業種だとわかっているので、今の現金の保管の状況(レジの中身とか金庫とか)を自分の目でしっかりと確認したいからなのです。
リフォーム工事業や工務店や建築業関係では告知無しの税務調査が絶対無いとは言えませんが。

 

「検査権」と「捜査権」の違いについて

 

「捜査権」とは、令状による国税局の査察官の脱税容疑者に対する「強制調査権」のことを指します。
「質問検査権」とは、税務職員の「任意調査」による調査権限を指します。
任意調査には強制力は無いですし、任意調査における質問検査権を使う際には、納税者に調査の理由を説明し、その了解を得て、納税者が提出した書類等を検査することとされています。
それに対して、国税局査察部の犯則調査は強制捜査なので、告知が無くても断ることは出来ません。

 

 

(2)税務署から税理士を通しての調査依頼が!

 

事前に電話などでの予告ありの税務調査の対応策について

 

まずは、税務署から顧問の税理士事務所へ電話があります。
税務実地調査の依頼ですね。
通常は、調査が開始される1~2週間前に通知が行われることが多いです。

何らかの都合で言われた日時がダメな場合は、日時を変更してほしいと依頼することも可能です。
関西の場合は、2日間連日で調査させてくれ、と言われるケースが多い感じがします。
(個人事業のケースでは、まずは1日だけ空けてもらって、1日目の内容次第で2日間に延長するかもしれないと 事前に言われることもままあります。)

 

 

(3)税務調査の日時が決定!

 

①事前準備

まず、当事務所から御社に調査に最低限必要な資料の一覧表をお送りします。
その一覧表を見ながら、資料が全て揃っているかのチェックをしてください。
一通り揃ったら、この時点で、当事務所にお知らせ下さい。

その後、調査までの間に、当社から御社に出向いて調査に必要な資料に過不足が無いかを確認しに参ります。
この時、不足資料の確認と同時に、調査で直接関わりのない資料については、過剰な資料は敢えて出さないことも、お打ち合わせします。
さらに、税務調査と同じような感覚で財務諸表を見ながら質問をさせて頂き、税務調査で問題になりそうな箇所を洗い出します。

 

最近はほぼ100%、調査官は事前に調査の前に御社のホームページを見てから来ています。

ホームページの内容と説明が食い違いの無いように再確認下さい。
説明を求められ、その答え方で誤解を受けそうな部分がある場合については、要らない誤解を避けるという意味で、答え方のアドバイスを致します。

 

このような事前作業が税務調査の場合は必須です。
調査当日の立会いより、むしろ、この事前準備確認の方が、重要と言っていいでしょう。
初めて調査を体験する社長様も、この模擬練習で、少しは落ち着いて、自信を持って調査に臨めるのではないかと思います。

 

②税務調査の立ち会い

大抵の場合、朝の10時から調査が始まります。
10時少し前に税務職員はやってきます。1~2人できます。

税務職員は、税務調査(質問調査権の行使)に当たり、その身分を示す証明書を携帯し、提示する義務があります。ですから、入ってきたら 最初に必ず相手の身分を確認しましょう。

実際の税務調査には必ず税理士本人が立ち会うことになっています。

 

税理士の税務調査の立会の業務には2つの役割があります。
ひとつは、税務署職員が適正な調査を行っているかを第三者的な立場から監視します。

 

税務署職員は一般に納税者が想像しているようなコワイとかイヤラシイとかの性格の職員はほとんどいません。
けれども、まあこれは税務署に限ったことではないですが、中には時々、高圧的な態度を取ったり、無理な要求をしてくる勘違い職員もいない訳ではありません。

また、偶然を装って、不意をついて法人の経理に関わらないような、個人の私物まで出させようとする場面もあります。(大抵、1度の調査でこのような場面が1度か2度出てきます。)
そのような時に、あなたに代わり、その職員や税務署に抗議をすること、ダメなものはダメ!と断るのも
私ども税理士事務所のお仕事です。

 

そして、もうひとつのお役目が、税法の知識面で、あなたをサポートすることです。
税務調査ですから、税法を根拠として話が進みます。相手は税務署の職員ですから税務知識を持っています。
ところが、税務署職員といっても税法の全てを知っているわけではありませんから、時々、税法の規定にはない間違えたことを言う場合もあります。
ひどいケースでは、意図的に誤解しやすい表現を使って、あなたを調査官の都合がいい方向に誘導するつもりなんじゃないかと勘ぐりたくなるケースさえもあります。

例えば、税法の根拠がないにもかかわらず、税務署職員が御社の処理を否認してきた、というような場合、税法の知識がなければ、なんとなく納得させられてしまうかもしれません。
でも、税理士が立ち会っていれば、そういう場合にも、正確な知識に基づき反論ができます。

 

 

さて、朝来られて、一通りのあいさつが済んだら、いよいよ税務調査が始まります。
調査が始まれば、最初の1~2時間は、社長に対して簡単な質問や世間話を次々にしてきます。
これもお決まりの手順です。

 

社長の経歴、現業に至った経緯、主な取引先、掛けや手形のサイト、現預金の管理状況、事業の主な取引の流れ、売価の算定方法、従業員の人数や地位、ご家族構成、ご家族の方の事業へのかかわり具合、社長や奥様の趣味など幅広く聞いてきます。

この聴取が素となって、午後からの帳簿との突合作業に繋がっていきます。
聞かれたことに対して、簡潔に手短に答えて下さい。

 

そして、調査1日目の午前中が終わり、12時からの昼食タイムをはさんで、1時から再び午後の書類の点検作業が始まります。

午後からの調査は通常、過去3年分に絞って、元帳や請求書、領収書、見積書、掛管理帳、手形帳、給与台帳、各種議事録、契約書、預金通帳、現金出納帳などを、1枚1枚めくっていき、気になる箇所に付箋を貼ったりします。

 

付箋を貼った疑問箇所については、社長や経理担当にその都度、またはいくつか貯めて、質問してきます。答をきいて問題が全く無いと判断すれば、付箋をはずしますが、後々何か問題視したいところについては、コピーをとらせてくれと、要求してきます。

コピーは自由に取らせず、どこが必要か指さし確認し、その箇所だけを会社側でコピーして渡しましょう。
そして、相手に渡したものと同じものをあと1セット余分にコピーし、何を渡したのか後でもすぐに分るようにしましょう。

 

 

 

2日目もおおむね、1日目午後の作業と同様の作業が続きます

2日目の3時を過ぎたくらいから、2日間の感触を話して来られます
前面是認の可能性が高いのか、かなりの問題点があるのか、仮装隠蔽に基づく重加算税の対象と考えている部分があるのか、無いのか・・・など

 

重加算税を賦課するには、仮装隠蔽 故意性を要件とします。
より積極的な脱税行為を目論んだことが要件なので、単なる不注意については重課を課すのは難しいようです。
なので、仮装隠蔽を立証できる決定的な要件が揃わない時は、調査官は自分の持っている便箋を差し出して、始末書みたいなものを書くようにいってきたりします。

口が上手い調査官は、いかにも、これを書いたら外は甘くしてあげるよ的な誤解を感じさせるような、甘い誘惑めいたことを言いながら、
便箋に書く 「やっちゃいましたが、以後気をつけます」 を内容とする文章例を口頭で教えてくれ、その通りに書くように指示を出したりします・・・

 

しかし、これをそのまま書いても、堪忍なんかしてもらえません。
だって、堪忍するなら口頭注意で充分でしょ・・・
その文章が何に使われるかというと、「ワザとやりましたごめんなさいもうしません」の重加算税賦課の故意性の論拠材料にするんです。

 

なので、安易に文章は書いてはいけません 書くなら、その結果どのようなことになるのか、よく説明を聞いて納得したうえで書きます。

そのあたりも判断が付かない時は、税理士に聞いてもらいましょう。

 

国税局がさかのぼって追及する期間は

①.更正の場合は、5年
②.決定の場合は、5年
③.偽り・不正の場合は、7年。

余談ですが、この遡及期間に沿って、企業側の帳票の法定の保管期間も7年とされています。
帳簿や領収書などは、邪魔だからと簡単に捨てないようにして下さいね。

 

※更正とは、税務申告をした者に対し、税務署が税額を変更することで、決定とは、税務申告義務がある
にもかかわらず税務申告をしていない者に対し税額を決定することです。

 

 

(4)調査終了後の税務署との折衝(通常1~2回税務署に出向きます)

調査が終わった調査官は署に戻り、問題点があればそれを上司に報告します。
そして、後日、納税者と税理士に指摘事項として開示され、互いの言い分、事情を話し合います。
仮に、調査官の調査の言動に行きすぎがあった場合には、署の上司に、調査中の問題点を指摘したりもします。
指摘事項が内容的に または 金額的に巨大な場合や 社長が自ら最後まで同席するという希望がある場合以外は、通常、折衝はある程度の御社の決裁権を預って、税理士が単独で出向くことが多いです。

 

 

(5)税理士法第33条の2の書面添付制度

税理士法第33条の2の書面添付制度というものが近年制度化されました。
その制度は、書面添付した法人の調査については、実地調査の前に、税理士からの意見聴取というプロセスを要すると定めた制度です。
この場合、まず税理士が税務署に出向き、または電話で、ヒアリングを受けます。そしてその結果によって、税務実地調査の有無が決定されます。

 

弊社も徐々にこの書面添付毎数を増やしています。
ただ、書面添付については、何か書けとけば良いという物ではなく、それなりに内容の濃いものでなければなりません。中途半端な書面添付は無いほうがマシなので、出すなら、読む側から見て失礼じゃないものを出しましょう。

 

 

(6)税務署の組織

 

①.税務署には、個人課税部門・法人課税部門・資産課税部門と管理・徴収部門があります。
各部門には、統括官がおり、その下に上席その下に普通の調査官がいます。

 

②.上記部門以外に、特別国税調査官(通称は、トッカンといいます)がいます。特別国税調査官には、所得税担当・資産税担当・法人税担当・源泉所得税担当等がいます。大きな税務署には、国際税務専門官もいます。

 

③.上記の上に、署長及び複数の副署長(副署長は担当がある)がいます。小さい税務署だと副署長は1人しかいません。

 

税務調査に来た人が、税務署内でどういうポジションにいるのかを把握することも大切です。
決裁権の無い人に声を荒立てても、労力の無駄ですから。

調査官も人間なので、能力も性格も一人一人相違するので、正直、当たり外れはあります。
まあ外れた場合には外れたと割り切って、相手をよく観察して税務調査にのぞむのが合理的です。

 

実際に弊社の顧問先さんに臨場した調査官は、ことごとく話のピントがずれて参ってしまったこともありました。
しかし、最終的に署に出向いて席に着いた決裁権を持つ統括官は聞く耳と理論を兼ね備えた方でした。
相性や当たり外れはありますが、過度に気にせず通り過ぎましょう!

 

 

 

 

  (7)税務署の年間スケジュール

税務署の人事異動は7月です。したがって時期的な傾向として、8月から12月中は本腰を入れて税務調査をすることになります。逆に、6月に新たに税務調査に来ることはあまりありません。また、5月以降に新規で調査に行なった場合、簡単な調査で済む場合も多いようです。

 

 

(8)調査法人の抽出の実態

①指定業種

その年度の重点調査業種。好況な業種が指定されることが多いです。

 

②金額の年次比較

・売上・仕入など各勘定科目の大幅な数値変化
・粗利率と棚卸高の大幅な変化
・役員報酬の大幅な増加
・売上高と人件費の対比率の変化
・交際費・会議費・福利厚生費の増加
・多額の固定資産除却損
・仮受金・預り金など不明確な負債の増加
(負債は収入の増加や経費の過大計上と密接な関わりがあるので)

 

③関連同族会社との関係

親会社・子会社の決算期のズレを利用した利益調整がないか、また、
親会社の外注費や支払手数料、子会社の売上高の変化なども
チェックします。
場合によっては、親会社と子会社を同時に実地調査することもあります。

 

 

 (9)調査結果に対する対応の仕方

①調査結果を受け入れるとき

修正申告書を提出するか、更正・決定処分を受ける。

 

②調査結果を受け入れないとき

 

更正・決定処分を受ける。

 

 

(10)不服の申し立て

調査結果を受け入れない時には、更正・決定処分の後

①異議申立(処分があったことを知った日の翌日から起算して2ヶ月以内)

異議申立てを受けた税務署長は、納税者の言い分に理由があると判断した場合には、元の更正処分を取り消すという決定をします。
一方、納税者の言い分に理由がないと判断した場合には、棄却の決定をします。
処分の全部ないし一部が取り消される確率としては、15%程度です。

 

②審査請求(異議決定書の謄本の送達があった日の翌日起算で1ヶ月以内)

審判所でも納税者の言い分を聞いた上で「裁決」を下すことになります。
裁決段階での処分の全部ないし一部が取り消される確率も、15%程度です。

 

③取消訴訟(処分又は裁決があったことを知った日から6か月以内です)

 

 

 

  (11)最近の調査で

以前はほとんど見なかったのに、念入りに見るな、と感じるもの

 

・ 従業員の扶養控除等申告書の整備が厳格になった
・ 役員報酬改定議事録
・ 外注業者との基本契約書を必ず確認される(消費税を絡めて・・・)

 

 

 

(12)最後に、顧問税理士として調査の心得

税務署職員が適正な調査を行っているかを冷静に監視し、また、御社の代弁者として、税法の知識面のサポートし納税者の権利を守ります。
もし、顧問税理士がいなかった等の理由から、既にこじれてしまった税務調査の途中でも一度ご相談下さい。

 

 

toi-m
Copyright(c) 2014 岡野公認会計士事務所 All Rights Reserved.