利益≠キャッシュ
決算時期になるとよく受ける質問です。
「今期の利益が、300万円ですか?でも、その分現金が増えているわけではないですよね?この利益300万円はどこへいったんやろか?」
当事務所のお客様に毎年、決算申告書をまとまった際に最終数字の報告をさせていただいた際に、この質問は非常に多いものです。
利益がどこへ消えたのか?のその隠れ場所?を突きとめるためには、はじめに最低限のルールを理解していただく必要があります。
ちょっとまどろっこしいかもしれませんが、まずルールをおさえときますね。
ルール その1
会社に入ってくるお金は、決算書の世界では「資本金」・「負債」・「収益」の3つのグループに分けます。
「資本金」・・・会社のオーナーである株主が会社を開始するために出資した金額。ほとんどの中小企業は株主と経営者は同じですが。
「負 債」・・・他人から借りたお金で、当然返済義務のあるものです。銀行からの融資はこれにあたりますね。
「収 益」・・・商品やサービスを提供してそれと引きかえに入ってくるお金です。もちろん返す必要はなく、「売上」が収益の代表的なものですね。
ルール その2
会社から出ていくお金は、「資産」および「費用」という2つと、それから「負債の返済」の3つのグループに分けなければいけません。これは決算書を作る際のルールの一つです。
「 資 産 」・・・現金そのものか、あるいは将来現金に変わり得るものへのお金の使い道。什器備品、車両、建物等、近い将来売却して換金出来るものもこのグループです。
「 費 用 」・・・事務用品や支払う給与、出張旅費等がここのグループです。使いきってしまって、将来に価値の残らないものへのお金の使い道と言えますね。
「負債の返済」・・・〔ルール その1〕で取り上げた融資を受けた際の借入金などの返済のことですね。
ルール その3
利益は上記のルールで分けた中で「収益」から「費用」を差し引いて計算します。つまり、利益 = 収益 -費用 なのです。
(当り前やないか!って言わないで)
ルール その4
決算書のルールは、お客様に商品を渡した時点で売上を計上することになります。
売上に対するお金をもらったか、もらっていないかは関係無いのです。
たとえば、宅配ピザ屋さんが、近所の山田さんにピザを1枚出前したとします。山田さんにピザを手渡したその時点で「売上 ピザ1枚1000円」と、帳簿に書かないといけないのです。たまたま山田さんがお金が無くて、ピザ代金の支払いを3日待ってくれと言ってもです。
以上の4つのルールを踏まえて、ケース・スタディをやってみたいと思います。
話を簡単にするために、現実はさておいて非常にシンプルな事例でいきます。
用意はいいですか?
あなたがコンサルタントとして独立したとして、1年目の取引は、次の6つだったと仮定します。
①はじめに株主として300万円用意した。
②銀行から500万円借りた。
③事務所の保証金200万円を、現金で支払った。なお、この200万円は事務所を出るときに全額戻ってくる。
④家賃を240万円、現金で支払った。
⑤コンサルティングの報酬として、1年で1,000万円の契約を結んだ。約束した仕事はすべて終わったが、この1年の間に現金で受けとったのは、900万円で残りの100万円は来期にもらう約束をした。
⑥銀行に借入金を80万円返した。
さて、このコンサルティング会社の、この年の利益はいくらでしょうか?
決算書の世界にあまり明るくない方の回答例を2つばかり示します
回答1
売 上 900万円
保証金 -200万円
家賃 -240万円
利 益 460万円
であったり、
回答2
売 上 900万円
保証金 -200万円
家 賃 -240万円
借入金 - 80万円
利 益 380万円
(回答2)は、(回答1)のまちがいをすべて犯しつつ、さらにもう一箇所、勘違いしています。
なぜ、利益の計算をまちがえたのかを先に示したルールに基づいて明らかにしましょう。
利益を求める算式は、収益―費用=利益でした。この公式に当てはめて利益を計算するために、まず、この6つの取引を入金と出金に分けます。
そして、(ルール その1)と(その2)で示した6つのグループにそれぞれを割り振っていきます。
取引No | 金額 | 入金・出金 | グループ名 | そのグループに入る理由 |
① | +300万円 | 入金 | 資本金 | 株主が投資したお金だから |
② | +500万円 | 入金 | 負債 | 銀行からの借金だから |
③ | -200万円 | 出金 | 資産 | 将来換金できる使い道だから |
④ | -240万円 | 出金 | 費用 | 使いきってしまいお金は戻らないから |
⑤ | +900万円 | 入金 | 収益 | コンサルというサービスの提供と引き換えにももらった金だから |
⑥ | -80万円 | 出金 | 負債の返済 | 銀行への返済だから |
※ 上の①から⑥までの金額をプラスマイナスすると1,180万円になります。これが、この会社の1年めの決算時に残った現金ということになります。
グループ分けが終わりましたので、6つの取引から収益と費用だけを抜き出します。
収益は⑤のコンサルティング報酬の900万円だけです。費用は④の家賃240万円だけです。
以上から利益を計算しますとこうなります。
回答3
売 上 900万円
家 賃 -240万円
利 益 660万円
ところが、これでも正解ではないのです。
(ルール その4)を思い出して下さい。決算書の世界では、商品やサービスをお客様に引き渡した時点で売上を計上しないといけないというルールです。売上代金をもらったか、もらっていないかは関係ないのです。
このコンサルティング会社は、コンサルティングというサービスの提供は、この年に1,000万円分終わっているわけです。(回答3)では「売上900万円」とありますが、これは売上代金の回収額であって、決算書のルールが要求している売上高ではないのです。正しい売上高は、お客様に渡し終わったサービスの代価の1,000万円です。売上をこの金額に修正すると、やっと正しい利益が計算できます。
正 解
売 上 1,000万円
家 賃 -240万円
利 益 760万円
これが損益計算書と呼ばれる決算書です。
この正しい損益計算書と、先に示した間違いだらけの(回答2)を見比べてみましょう。
(回答2)
? 売 上 900万円
? 保証金 -200万円
家 賃 -240万円
? 借入金 - 80万円
利 益 380万円
上から順に違いを見ていきます。
?売上は、900万円という代金の受取額ではなくて、引渡したサービスの代価1,000万円で計上すべきです。
?保証金は、将来戻ってくるので「費用」ではなく「資産」になります。
ですから、利益を計算するときは、差し引くことができないのです。
車や機械を買っても同じです。
?これは、「負債の返済」であって「費用」ではないので、やはり利益を計算するときに引くことはできません。銀行から借金をして会社にお金が入ってきたときに、それを売上とする人はさすがに少ないですが、こと、お金が出ていく返済となるとコストだと考えてしまう方が多いようです。
ここで注意点が1つあります。今回の例では、金利の支払いは例をシンプルにするために無かったですが、もしあれば、金利についてはお金を借りるためにかかったコストということで「費用」になるという点です。
以上で、この会社の1年間の利益は、今の決算書のルールでいくと760万円であることは納得いただいたんじゃないでしょうか。
今回のもともとのテーマは、利益760万円に見合うキャッシュが増えないのはなぜか?でした。その視点でもう一度、今までの流れをとらえ直してみたいと思います。
もともと、会社を始めるにあたって集めたお金は、自分で用意した資本金300万円と銀行からの借入500万円の合計800万円でした。これをスタートと考えてみましょう。
利益が760万円出た、ということは、もともとあった800万円に利益760万円を足して1,560万円のキャッシュが残っているはずだと考えてしまいがちです。が、実際は、前の表で残高を計算したように1,180万円しかないわけです。
「思っていたより380万円少ないのはなぜだ?誰か盗ったのか!?」と悩むわけです。
でも、ここまでしっかりお読みいただいたあなたは、もうおわかりですよね。
えっ、今まで寝ていたからわからないって。(笑)
じゃあ、なぜ380万円の差が発生したのかを、もう一度、視点を変えてお話しましょう。
まず、売上1,000万円のうち、100万円はまだもらっていないので、その分、利益よりキャッシュ増加額は少なくなるのです。したがって、この100万円は利益で増えたようにみえたお金のうち、実際は増えていない金額といえるのです。
あとは「費用」にならない出金項目が2つあるため、その分、利益よりキャッシュ増加額が少なくなるわけです。つまり、利益を計算するときには費用じゃないという理由で差し引かれなかったけれど、出金には違いないのでお金は減っているのです。具体的には、保証金200万円と借入の返済の80万円の合計280万円だけキャッシュは消えてしまっているわけです。
さきの100万円とこの280万円を足して380万円で、これが消えたお金の隠れ場所です。
利益が出ているにもかかわらず資金繰りが苦しい会社は、売上代金の回収が遅い、設備投資をしすぎている、借入金の返済額が多すぎる、在庫が多すぎるの4つです。コンサル会社には在庫はありませんが。
以上のことを表にまとめると、次のようになります。
はじめに集めたお金 | 800万円 |
1.利 益 | +760万円 |
2.売上代金の未回収 | -100万円 |
3.保 証 金 | -200万円 |
4.借 入 の 返 済 | - 80万円 |
残 っ た お 金 | 1,180万円 |
※こんなふうに、利益とお金の増減理由を明らかにした計算書が、キャッシュフロー計算書と呼ばれる決算書です。
はじめに用意したお金が800万円(内訳は資本金300万円、借入金500万円)でした。それに、1年間の利益760万円を足すと1,560万円となり、これは、現金が利益の分だけ増えて、これだけは金庫に残っているはずだと勘違いしやすい金額でした。
でも、現実はちがって、商品の引渡しは終わって、売上には計上しているけどもらっていない金額が100万円ありました。また、費用じゃないから利益を計算するときには引かなかったけど、実際、お金は出て行ってしまっているものが2つありました。保証金と借入の返済です。これらを1,560万円から差し引いて最終1,180万円、これが1年めに残ったお金です。
もともとが800万円からのスタートでしたから、計算すると1年間で380万円お金が増えたことになります。現金増加額380万円に対して、利益は760万円でした。
これを見ると明らかに、利益とキャッシュ増加額は等しくないことがわかると思います。この2つは、等しくなるほうが奇跡に近いと考えてもらっていいと思います。
では、絶対、利益と現金増加額は等しくならないのかというとそうとは言い切れません。
1つ思い浮かぶのが、大道芸人です。
体ひとつでビジネスができるので、キカイや車を買ったりという設備投資がなく、借入をおこす必要もありません。売上は、道端で芸を披露し終わったら、その場で、持っている帽子に現金をいれてもらうというビジネスですから、商品の引渡しとともにすぐに現金で売上代金を回収できます。したがって、先のコンサルティング会社のような誤差が生じる余地がなく、利益と現金増加額は等しくなりますね。